8月2日(火)

 

 時差のせいで,一家は3時半に目を覚ました。そのままベッドに横たわって朝を待っていた。朝食の後,私は一人で「地球の歩き方」をもって,地下鉄駅に行った。61ドルのmonthly pass を購入し,改札口を通った。ホームに立ってからしばらくすると,すごい轟音をたてながら,列車が突入してきた。車内には,いろんな肌色の乗客がいた。福岡の地下鉄ほど混んでいなかったが,車両のサスペンションの制振動性能はそれほど十分でなく,騒音と揺れは激しく,乗り心地はそれほど満足できるものではなかった。それでも,倦怠の顔色をしたり,仮眠をしたりするおじさんや,手鏡をもってお化粧を直したりする若い女性が目立つ日本の通勤客と比較して,こちらの乗客の皆さんは表情が明るく,本や新聞などを読む人が多い。心の余裕をもって,職場に向かうのであろう。

 

9時半にSu助教授の研究室にお邪魔した。そこで,博士課程の学生 Ma Xiao-Qing(一児の母)が紹介され,3人で一緒にアパートを探しに行こうとした。まず,Su助教授がどこかに電話をすると,流ちょうな英語で「3 ½があるよ,見に来たら」と,女性の明るい声が電話の向こうから伝わってきた。3人で事務室に行ってみると,なんと30代の東洋系の女性が座っていた。電話の声の主であった。「彼は来たばかりで,家を探しているのよ」と言ったら,今度は冷たい北京語で「3 ½はない。1 ½ならあるわよ」と返ってきた。母国から来た余裕のない新移民だと思い,貸したくなかったのだろう。彼女の北京語には,上海訛りを薄々と感じ取った。

 

今度はMaさんのお友達が住んでいるという19世紀のヨーロッパを彷彿させる石造りのアパートに連れられていった。3 ½のアパートは月に700ドルだという。一階の事務室にはいると,明るい笑顔の絶やさない金髪の若い白人の娘さん二人が応じてくれた。早速空いている部屋を案内してくれた。エレベータで上り,薄暗い廊下に出た。蒸し暑い廊下に,いくつかの非常口の標識灯が元気なさそうに灯っていた。部屋に案内され,説明を受けると,大変なショックを受けた。そこで初めてモントリオールのアパート事情が説明されたのである。モントリオールのアパートでは,一般にオール電化のシステムキッチンと冷蔵庫が備え付けられているが,大半のところには,冷房がない。洗濯機の使用はほとんど許されていない。地下室或いは屋上にあるコイン式の洗濯機を,アパート中の住民が共用するのが普通である。日本みたいに廊下の片側が外気に開放されているのと異なり,廊下の両側に住居用の部屋があり,どこの廊下も薄暗くて,閉塞感がする。おそらく寒冷地ならではの構造であろう。半数以上のアパートはベランダがない。郊外にあるHouseでもなければ,「日当たりがよい」とか,「風通しがよい」と言った概念はない。

 

 アパートを出た後,私は正直にSu助教授に意見を言った。「こんなアパートには住めない。女房と子供が日本に逃げて帰られそうだよ。せっかく住みやすいと言われるカナダに来たから,赤字覚悟の上,1200ドルまでの家賃でも我慢できる」。「分かったよ。でも市内に住むなら,you have no choice. どこでもこんな条件だ。とりあえず昼食でもとろう」。その日は実に暑かった。まだ禿げていない頭の黒髪は,灼熱の日差しのエネルギーをどん欲に吸収していた。近所の中華料理屋に駆け込み,差し出されたお冷やをがぶのみした。突然,口の中に柔らかい異物が入ったのに気付いた。吐き出してみると,それは蝿の死骸だった。「Excuse me! Look! と激しく抗議すると,「わかったよ.水をもういっぱいやろう」といわれた.三人はすぐさま店を飛び出した.二日目の午前は,不運の連続だった.

 

 昼食の後,Su助教授は用事があって,アパート巡りからリタイヤした.私とMaさんは気分を取り直し,家賃が千ドル前後のアパートを数カ所回った.管理人は大体親切でよく応対してくれたが,冷房とベランダのないところはほとんどであった.最後の一軒は,担当者不在のため,翌日の午後に会うというアポイントをとって,本日のアパート探しを終了した.明日に希望を託そう.

 

 

アドバイス:

これから家族でモントリオールに来てアパートを探す人のためのアドバイスをしておきます.

日本でモントリオールのアパート事情を調べてみたいならば,アパート賃貸のホームページを活用すればよいのです.大体実情を反映した広告が載っています.部屋数の記述法は以下の通りです:

1 ½ 日本でいう「ワンルーム」
2
½ ベッドルーム+ダイニングキッチン+ユニットバス
3
½ ベッドルーム+キッチン+リビング+ユニットバス
4
½ ベッドルーム二つ+キッチン+リビング+ユニットバス

 

Furnishedと書かれた物件は,オール電化のシステムキッチンと大きな冷蔵庫が備えてあることを意味します.Fully furnishedの物件には,ベッドやテレビなども付いているが,家賃が高く,あまりお得ではありません.別途購入した方が安上がりです.

アパートの探し方は至って簡単です.街を歩き渡り,「A LOUER」との看板のあるアパートのロビーに行き,「アパートを借りたいですが,オフィスはどこですか」と人に聞けばよいのです.条件が合えば,その場で契約すればよいです.大体の管理人は親切で大らかな白人で,よく説明してくれます.日本ほど「外国人はお断り」といったケースは多くありません.また,礼金や敷金も必要ではありません.

部屋の造りは日本ほど丁寧ではないので,ドア錠がぐらぐらしたり,電気のスイッチが壊れかけたりすることもよくありますので,その辺は割り切って大らかに考えた方がよいでしょう.

ただし,部屋探しに当たって,以下の点を注意してチェックしました.

(1)管理人の性格や人柄は良さそうなのか.

(2)ビルの管理システムはしっかりしているのか.例えば;管理事務室内は整然としているのか;24時間の当直があるのか;ロビーは清潔であるのかなど.

(3)ロビーでしばらく立ち,出入りする入居者をしばらく観察し,彼らは上品そうなのかをチェックする.

(4)HeatingElectricityは家賃に含まれるかどうか.